■ ナイフのブレード(刃)の組成分析
新しくナイフを購入しました。 佐治武士氏の2003年6月末発表の作品「ほたるシリーズ」その2です。

白紙全鋼の本焼きで鍛造された、和式ナイフと洋式ナイフを組み合わせた、佐治さんの意欲作です。
白紙全鋼なんて聞いたことないよぅ? 私もそう思いました。 白紙全鋼とは一般的な和式刃物のように軟鉄と鋼を鍛接して
造るのではなく、鋼の一枚物を鍛造、土おきして焼き入れた本焼きのナイフです。全て鋼で作っていますので、刃先部分
には焼きが入っていますが、峯の方には焼きが入らないように、焼土を厚く塗り、焼き入れをしています。
ステンレスの洋式ナイフと違い、炭素鋼ですので錆びますが切れ味はすごく良いです。 それはトマトを切ると良く判ります。
ハンドルにはアイアンウッドを使い、牛革ケースがついた、まさに和洋折衷の作品です。 ハンドルに、鹿の角を使ったバージョンも
ありますが、少しだけお高いです。 まあ、この範疇は使う用途によって選ぶべきことなので、この際ここではパスいたします。
ハンドルの部分では、白紙全鋼をはさみ込む構造なのでこの部分は錆び易いのが欠点かな? でも、ここをコーティング
すれば、問題なしだし、その位のオリジナリティは所有者が工夫すべき問題です。
マニキアの薄い液をコーティングしても良いし、それが剥がれるならそこを本格的にコーティングするのも良いでしょう。
このナイフは本当に楽しめる一本です。
それより、砥いだ後の試しとして毎回、私のスネ毛を剃るので、生える間がないのが問題かなぁ。
そう、ナイフで毛を剃る、、、それくらい切れないといけない世界なのです。 ちょっと危険な世界ですねぇ。
仕様:ほたる 2 大 刃の素材: 白紙全鋼 全長205mm 刃長90mm 刃厚3mm 刃幅22mm
刃の種類: 両刃 柄:アイアンウッド 牛革ケース付
素材は「白紙」とのことですが、白紙にも1号〜3号までの種類があります。この材料は日立金属 安来工場が生産して
います。 ホームページのURLは、 http://www.hitachi-metals.co.jp/ です。
「白紙」は砂鉄を原料として、不純物を徹底的に取り除き炭素を加えたものです。 日本刀の原材料として使用される
玉鋼(たまはがね)に組成的にはもっとも近いものです。 (しかし玉鋼のほうが鋼としては上のランクです。)
焼き入れは困難ですが、硬度はHRC63以上と切れ味は最高クラスです。
鋼には炭素(C)のほかに珪素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、イオウ(S)という元素が含まれてますが、これを鋼の
「五大元素」と呼びます。
この他の重要な元素として、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、のようにステンレスに入っている材料やモリブデン(Mo)、
マンガン(Mn)、パナジウム(V)、タングステン(W)、コバルト(Co)などがあります。
マンガン(Mn)は強さと硬(かた)さをふやす、鋼には必ず含まれている元素です。 また「焼入れ」のときに、その働きを
助ける材料です。
モリブデン(Mo)は、タングステン、バナジウムと並んで高温でもなかなか軟(やわ)らかくならないようにする働きが
あります。また「焼入れ」のときに、その働きを助ける材料です。
長い前置きはこの位にして、材料の組成分析を発表します。 分析といっても、蛍光X線を使った非破壊検査ですので
全ての元素を正確に調べることは出来ません。更には炭素、リン、イオウや珪素といった軽量の元素は測定出来ません。

気になる「ほたる 白紙 ブレード」の分析結果
元素分析結果 比率 標準偏差
鉄(Fe) 99.367% (0.059)
マンガン(Mn) 0.579% (0.012)
モリブデン(Mo) 0.054% (0.002)
規格では、Mnの比率が0.2〜0.3%なのですが、実測値では2倍になっています。 でもこの際、数字を気にするより、
Cr、Ni、W、Coなどがこの精度で入っていない!と、いうことの意味するところを考えるべきなのです。
■ まとめ
私が購入したナイフは、「白紙」を使ったものであり、切れ味は最高! 研いだ後には、トマトの皮がスーっと切れる。
でも、錆び易いのでお手入れはしっかりやりましょう! 間違っても、食品を切ったあと、そのまま放置することはしない
ようにしないといけません。硬度が高く刃持ちがよいナイフより、硬度は多少低くて羽持ちが悪くても研ぎ易いナイフの方が
良いです。 ナイフは道具ですから、使ってこそ価値があります。 いろんな使い方をすれば、どんなナイフの刃も痛みます。
その時、すぐに砥げるって大事な要素ですからね。
参考資料
白紙(シロガミ):全部を砂鉄系の原料から作り、さらに不純物を少なくした炭素鋼が白紙2号で、さらに炭素量を増やした
1号と、炭素量を減らした3号と鋸材がある。白紙は、天然砥石で研ぐと最高に鋭利な刃が得られるということで珍重される
が、炭素鋼は不純物が少ないほど焼き入れの温度管理が難しく、熟練が必要になる。
青紙(アオガミ):白紙にクロム(靱性と焼き入れ性を増す)とタングステン(耐摩耗性を増す)を加えたセミステンレス鋼が
青紙2号で、炭素量を増やした1号、それらの添加物の量を増やして特殊な方法で溶解させた青紙スーパーもある。
クロムやタングステンの他に金属炭化物も混じっているので硬度が高く刃持ちがよい。黄紙や白紙に比べて価格は高く、
高級ナイフなどに用いられる。
銀シリーズ:クロムを12%以上加えたステンレス鋼で、銀5はカミソリ替刃材として世界中で広く使われる。銀1はクロムが高く、
モリブデンを添加しているため耐食性に優れている。銀3は炭素鋼並みの硬さと切れ味を得られる。
最初の写真と同じなのですが、、、白紙の綺麗さと佐治さんの文字を見て頂きたくて、、、

|